「目指すものになれなければやる必要がない」

これは、スタッフが「日本でフランス料理をやるという選択肢はないのですか?」と問うたときの佐藤シェフのことば。フランス料理をやるのに、日本では日本料理には(僕は)適わないと思う、と。

2000年に渡仏してから2009年に「Passage53」を開店し、翌年のフランスミシュランで1つ星、その翌年に2つ星をとった35歳の佐藤シェフ。番組は、7年前の、日本人の知人宅に身を寄せて出張料理を作っていた頃の映像も織り交ぜて、異例の早さで2つ星を取ったシェフの「苦悩」に焦点を当てていた。

Passage53は、パリのパッサージュに、デノワイエという肉屋のビストロとしてオープンしたところから始まった。店舗は21席。決して大きいとはいえない。2階が厨房で、6畳ほどの広さしかないそうだ。2階から細い螺旋階段を下りて料理を出すスタッフをカメラは写す。料理スタッフは全員日本人だ。

番組で印象に残ったのは、小さい店であることからくる、店と客との距離の近さ。
美味しいと思ったお客さんは螺旋階段を上がってシェフに直接感想を伝えに来る。「豚肉に花梨を合わせてたのがよかった」という客に、「花梨は複雑な酸味と甘みを持つので使うのが難しい食材。難しければリンゴでもいいんですよね」というのは、フランスの食材への信頼感と自信がないと出ない言葉だ。

佐藤シェフのスペシャリテとして紹介された、タマネギのキャラメリゼに黒トリュフ。タマネギの間にスライスした黒トリュフを1枚1枚敷き詰め、元の形に戻してトリュフバターを載せて焼く、佐藤シェフ自信の一品。ある日これを残した客がいた。それを知った佐藤シェフは厨房で動揺し、「家庭料理じゃないんだよ?残されたらどんなに美味しく作ったって伝わらない。」「料理人失格だ」と落ち込む。料理のレスポンスが料理人のモチベーションにこんなに大きく響いているのを初めて見た。

「残されたらどんなに美味しく作ったって伝わらない」ということばは、食べる側の人間にとっては重い言葉だ。私事だけれども、海外に出かけて、日程が取れないときなどに昼・夜両方にレストランの予約を入れることがある。どちらかを軽くするなどの対策はするのだけど、どうしても「どうやって残す量を小さく見せるか」というくだらない努力を強いられる。
以前、それで「またぜひ来てくださいね、次回はお腹のすいている時に」と言われたことがあった。あのときの気持ちをまた思い出した。

料理に限らず、創られたものには志がある。手渡された側は、それを感じ、受け取る義務がある。料理は楽しく食べられればいい、という意見ももちろんあるし、そういう料理もある。しかし、作ることと同じくらいの覚悟をもって向かうことを要求される料理も確かにある。

佐藤シェフのフランスでの料理の方向性を決定付けたパリ16区・アストランスのパスカル・バルボシェフは、番組で「佐藤氏への助言は?」と問われ「料理を楽しめ」と。
料理を食べる側にも当てはまる言葉だ。

情熱大陸(TBS系)毎週日曜夜11時~

Paris.etc.「パッサージュ53の佐藤 伸一シェフ:完璧主義で芸術家を目指す」

Paris Gourmand パリのおいしい日々
パリ在住ライター・加納雪乃氏の4/13付のブログ。Passage53、店舗を拡張されたようです。

Passage53
http://www.passage53.com/
住所: 53 Passage des Panoramas, 75002 Paris, フランス
電話:+33 1 42 33 04 35
休日:日曜・月曜
Menu du midi : 60 €~
Menu du soir : 120 €