ローマ在住15年のフォトジャーナリストである著者が、イタリア全土を回り、郷土料理を紹介する本書は、イタリア20のレジョーネ(州)のうち、北イタリアの4州と中部の2州をとりあげている。

一つの食材ごとに生産者に直接取材していて、写真も多く、名産が書き込まれた地図も読み手の理解を助けている。イタリア料理を現地で食べたことのある人は、そのときのメニューを思い出して、「ああ、あの料理は…」と納得が行くことも多いはず。
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冒頭の、北イタリアの料理についての概要がわかりやすい。
「一般に、北イタリアの料理は、南に比べて手の込んだものが多いといわれる。特産の食肉加工品を応用した料理や米料理、詰め物パスタなどなど。素材の持ち味を生かしつつも、手間を惜しまずつくられているのが特徴だ。」
(「はじめに」より)

目次
ピエモンテ州―スローフードの本拠地、サヴォイア家の伝統
リグーリア州―海風と香草とオリーブ・オイル
エミリア・ロマーニャ州―詰め物パスタが自慢、食の宝庫
ロンバルディア州―特産物は、日本人にも馴染み深い米と蕎麦
ヴェネト州―魚介も家禽も!豊かな食材を堪能する
トスカーナ州―ビステッカからジビエまで肉三昧

本書の見どころは、地元の伝統の味を忠実に守り続けている店や一般家庭で、それぞれの地方の名物料理を作ってもらう過程だ。

例えばボローニャの項では、郷土料理を見直す会「ホームフード」のメンバーの女性の家庭で、トルテリーニ(詰め物をした小型のパスタ)を作ってもらうシーンが出てくる。彼女は「7歳の時、おばあさんにパスタ作りを教わった」そうで、そのレシピ紹介とともに語られるエピソードを読んでいると、味や作法の継承が…というか、継承そのものがイタリア料理の本質ではないかと思えてくる。

イタリア料理と今書いたけれど、本書はそもそも「イタリアにイタリア料理は無い」というスタンスだ。
それは「イタリア」とひとつの国として一括りにするのではなく、各地に根付く郷土料理に目を向けてほしいという考え方によるものだという。

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写真はアルバの白トリュフの紹介部分。記事には、毎年10月初めから11月の初めまで開かれる世界白トリュフ見本市の取材風景も。アルバの白トリュフはお金さえあれば買えるものではなく、まがい物も多く、確実に地元産を買うためには、タルトゥファイオ(トリュフ採集人)と直接コンタクトを取るのが重要なのだそうだ。

個人的には、ポー川の天然鰻の記事が興味深かった。天然鰻のマリネ缶「アングイッラ・マリナーラ・トラディッツィオナーレ」は今はなかなか手に入らないらしく、それを手に入れるため、著者が鰻の大漁を祝う祭りのため10月にコマッキオを訪れる場面がある。1800年代は大量に獲れたので塩漬けにしていたそうだけど、今は数が減り、近隣で養殖もしているのだとか。

本書は「ミラノ→フィレンツェ篇」となっているけれど、続編などは出ていない模様。
続編出て欲しいです!