また、いつものように、金曜の夜になってから土曜日のお昼予約にトライする泥縄式電話をかけ、「そんな直前に土昼のランチなんか取れるわけないでショ」的な、電話の向こう側のオヨビデナイ感に耐えつつ7軒め、ここもすでに何度かふられている(8席のお店だから当たり前だ)シック・プッテートルにかけると、「少々お待ち下さい」と待つこと数十秒、これは脈ありかも…と待っていると、予想通り「お席ご用意させて頂きます」の返事! 今週の働き全部がその瞬間報われた(笑)
翌日、実は自宅から歩いてでも行けるこの店へいそいそと向かう。近くて遠い。この1.6kmをたどり着くのに数ヶ月かかったよ。
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この日のお昼は¥6,000のコース一本、アミューズが6皿出てから前菜×2、メイン、デセールという構成。アミューズが多いのは、文字通り「アミューズメント」、楽しんで欲しいという意図だとのこと。

6皿のアミューズ、うまい。視覚的に美しくて味は気取りがない。見たことがあるようで見たことのない料理。どれも、シェフの思考を通してどこにもない料理になっている。

生井祐介シェフは1975年生まれ。軽井沢のレストランの勤務を経て2012年11月にこの「シック プッテートル」をオーナーソムリエの星さんとオープンしたとのこと。海外の修業経験はないそうで、すべて独学だという経歴がこの料理の「どこにもない」感を作っているのかもしれない。料理は古めかしくなく、今どきの新しさを備えている。トシさんのブログを読んで行ってみたいと思っているうちに、どんどん予約の取れない店になってしまっていた。

生井シェフの料理は精度の高さ…はもちろんだけれど、気高い感じよりは親しみやすさを感じさせて、それがたぶん、誰が食べても理屈抜きでおいしいと思わせる要素になっているのだと思う。
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この見た目懐石料理のデザートのような皿は、フォアグラのムースにショコラブラン、きな粉のような塊はパンデピスをアーモンドオイルで軽くまとめたもの、葛切のシートに、黒いものは黒蜜ならぬペドロヒメネス。パンデピスのさくさくが、ひと皿全体の食感を動きのあるものにしている。あとで話を伺うと、シェフの狙いも、その甘・辛のバランスと食感にあったらしい。和食的視覚のギャップも狙いのうちだろう。バルサミコでなくペドロヒメネスという選択も、酸味のバランスの点で納得。
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メインの牛ロースト、焼き藁の瞬間燻製。
藁で燻製香をつけるのは鰹などではよくあるけれど、肉だとドライエイジングしたような複雑な香りがついて、なんとも魅力的な香りになる。藁の、薪とも違う、何か別の思いを呼び覚ます感覚は、子どものころ、収穫後の田んぼの藁を焼いていたのを嗅いだ記憶かもしれない。

…とFacebookに書いたところ、それを読んで下さった別のシェフから「うちでは出汁にも藁の香りをまとわせています」というコメントを頂き、あの味の複雑さを形成していたの要素の一つが藁の燻製香だったのか…と。

今回のコースで頂いたフォアグラのパンデピス、アミューズに使われていたキャラウェイシードなど、随所に使われていたスパイスや藁の燻製香など、香りは食べる人の香りをより強く思い出させる。これらの香りが、料理から"その先"の風景をのぞかせていた。

CHIC peut-etre シック プッテートル
03-5542-0884
東京都中央区八丁堀3-6-3 高野サンパレスビル1F
月〜土 12:00-13:00(L.O),18:00-21:00(L.O)
日曜休

☟専門料理4月号。特集に生井シェフ出てます。