いま、コペンハーゲンのレストランNomaのシェフご一行が来日し、来年の来日のときに使う食材を見て回っているらしい。UPされていたのは「ホヤ」。
あの食感、外国人は大丈夫なのかしらん…



…と 余計なお世話的に考えてしまったのは、こちらを読んでいたから。



本書は、「英国一家、日本を食べる」(亜紀書房)と同じく、日本と日本の食べ物に魅せられた米国人の家族――著者である主人公の「僕」、2歳から日本食に興味を持ち始めた8歳の娘アイリス、妻のローリーの3人で、東京・中野の外国人向け短期滞在アパートを拠点に、1ヶ月間東京の食べ物を「食べ尽くす」物語である。

目次
お茶/中野/ラーメン/世界一のスーパー/朝ご飯/豆腐/東京のアメリカンガール/ラッシュアワー/焼き鳥/ほっとする街/天ぷら/チェーン店/うどんとそば/カタカナ/鮨/肉/鍋物/お風呂/餃子と小籠包/お好み焼き/居酒屋/たこ焼き/洋菓子/うなぎ/浅草/帰国する


どうしても先行の英国一家…との比較になってしまうが、あちらが辻静雄の著書をバイブルに日本の食文化の最も優れたところを押さえているのに対し、こちらのバイブルは漫画「美味しんぼ」の山岡荘八。
登場する店も、ミスタードーナツ、築地銀だこ、焼き鳥の秋吉、アパートの近所のうなぎ屋、ラーメンの一蘭、青葉と、チェーン系、ご近所店などいわゆる庶民派の店が多い。

著者と幼いアイリスは、そのカジュアルな使い勝手や味に惚れ込み、日本人の考えつかないような独特の見立てでそれらを理解しようとする。「青々した森ときれいな赤ちゃんを混ぜた香り(湯葉)」とか、「すね毛を剃り忘れた大根(山芋)」などなど。
コンビニ菓子の味の細かなディテールや、吉祥寺ではまったボタンの店(ユザワヤか?)など、商品の差異をマニアックに追求していくのが楽しいらしく、彼らがエネルギーをつぎこんではまりこんでいるのがわかる。
彼らにとって東京は、そういうモノを掘り下げていくととことん楽しい都市なのだ。

食べ物の記述の合間には、お約束で日本のハイテクなトイレや、うなぎ屋でタレをまんべんなくかける「タレかけ」のような器具にアメイジングを感じる記述も忘れない。
そういう意味では、「英国一家…」とこちらを両方読んだ読者のうち、身近な場所が題材となっているこちらによりシンパシーを感じるレビューが意外に多かったのもうなずける。


↑うなぎのたれかけ。

どこの国の食材(料理)にも、その国ではポピュラーなのに他国ではなかなか理解されないものというのがあって、本書で挙げられているのはぬるぬる食材。よく言われる納豆のねばねば、ぬるぬるではなく、例えばわらび餅、鶏皮、すき焼きの生卵、じゅんさい…などである。わらび餅については、味は気に入ったものの、噛みきれず、口の中にずっと残る食感に困ったらしい。

じゅんさいについては、周囲の粘度の強いあのぬるぬるが特にダメだったらしく、その比喩は生々しすぎてここにはとても書けない。日本の価値観に染まっていない柔軟な目で見るとこのような斬新な見立てができるのかと思った。しかしそこで、吐き出しそうになりながらも、じゅんさいを全部平らげようとする著者の姿には、食材への、そして異文化への敬意が見て取れる。
そして一抹の悲哀。

聞いてほしい。僕はジュンサイをひとつ残らず平らげた。皿を下げに来た店員に、微笑んで「おいしかった」と言った。その声がかすかに震えていたのは、怖れではなく敗北感のせいだろう。
(「6 豆腐」より)

著者は、シアトル・タイムズやWSJに料理記事を書くフードライターだということだが、本書が出版されるまでに、まずAmazonのebookで有名になり、書籍化にあたって、米国のクラウドファウンディングであるKickstarter(キックスターター)で資金を募ったらしい。

刊行日だけ比べると、英国一家より後に出たこちらが後追い本のように見えるが、編集の時間的にいって、どうもそうではなく、ほぼ同時期だったらしい。
今はこういう、日本の食を外国人が改めて注目して紹介するという流れがしばらく続く時期、というものなのかもしれない。

参考
本書にとりあげられた写真
(著者ブログ内の写真ページ)→こちら
著者インタビュー(英語)→こちら

「米国人一家、おいしい東京を食べ尽くす」
原題 "Pretty Good Number One:An American Family Eats Tokyo"
マシュー・アムスター=バートンMatthew Amster-Burton(著),関根光宏(翻訳)
エクスナレッジ(2014/5/26刊)