能や武道の師弟関係のあり方として「守破離」ということばがある。
最初は師匠や先輩の教えを「守」り、その次はそれを「破」り、その後はそれらの教えから「離」れて自由になり、奥義をきわめるというたとえだ。

料理の世界でも、そのような修業の時期に、師匠や先輩の教えを忠実に守るという感覚はいまも有効だろうと思う(今は昔のように「盗んで覚えろ」ではなく民主化されているとも聞くけれど)。これは「守」の部分。
しかし、重要なのは、道をきわめる長い人生のどこかで、「守」を離れ、「破」に向かわなければならないということ、そして、その時期を見極めるのは師匠ではなく、自分自身であるということだ。
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L'ASの兼子大輔さんと初めて会ったのは、4年くらい前、前の勤務店「QUAND L'APPETIT VA TOUT VA!(カラペティバトゥバ)」(麻布十番)だった。兼子さんのその前の勤務店でもある三田の「コート・ドール」出身のソムリエ長雄一さんと兼子さんが開いた店だ。
ワインバー風の長いカウンターの端の調理場から、どこにもないようなフランス料理がつぎつぎと出てくるので、どなたが作ってるんですか? と、奥から出てきたのが、30歳になったばかりの兼子さんだった。

L'ASの料理はどうしても、コースおまかせ¥5,000という価格設定のインパクトで語られがちだ。
だけど、この低価格の中で手を抜かないフランス料理を出すために、兼子さんが何を盛り込み、何を削るかを考え抜いた跡が毎回とてもよくわかる(わかってほしくないかもしれないけど)。料理は今回も挑戦的だ。
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フォアグラのクリスピーサンド
開店当時から出しているシグネチャーディッシュがこの形というのが、兼子さんのとらわれない自由なスタンスをよく表している。某アイスからインスピレーションを得ているから真似っこだという評価はむしろ逆。
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白菜と黒トリュフ
くたくたに煮た白菜の上に香りよい黒トリュフ。"ハレ"と"ケ"をひとつの皿に盛り込んでいる。手のかかったフランス料理の味だ。
素材の良さを前面に出し、手をかけるのは最小限にするのも最近のフレンチの一つの傾向であるけれど、これは素材より技術で見せる方を選んでいる。
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洋梨・くるみのサラダ、ブルーチーズソース
くるみはキャラメリゼか何か、カリカリにしてある。生や炒っただけのを入れるよりもずいぶんはっきりした輪郭になった。
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ムール貝のスープ
「ムール貝丸ごとのスープと身のみのスープを合わせたんです」。付け合せのパンは糖度の高いナスのピュレ、上にはたっぷりのコリアンダー。
印象的な香り。しかしつくづく地味な色だ。華やかさも、¥5,000のコースにするために兼子さんが削ったもののひとつ。制限を逆手にとるイノベーティブな発想は、彼の右に出るひとはなかなかいない。
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鶏とマッシュルーム・温泉卵

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マルキーズショコラとフランボワーズのソルベ

ところで、お店に伺ったのはRED U-35 2014の最終選考が終わって間もない日だった。
兼子さんは最後の6人に残ったものの、グランプリは逸した。
応募の動機は、受賞で注目されることで、これから新しい試みへの挑戦を続ける自分の姿を、後に続く人たちに見せたかったことだという。

兼子さんには、いま、例えば新しいお店を作るというような、周囲に宣言できる具体的な夢の形はなかった。(三次選考以降は、選考委員が候補者の仕事場へ実際に赴き、今後の夢や料理の意図、賞金のことについて質問があるという)
思考も料理も、グランプリを受賞するにはイノベーティブ過ぎたのだと思う。選考で評価が分かれたのだと聞いた。

そのような経験を通して、一般的にいわれる、先輩の言うことを守る「あるべき料理・料理人の姿」と自分は外れているのではないかと、兼子さんは今回珍しく迷いを口にしていたけれど、日曜夜にもかかわらず大にぎわいで40席2回転する客席が、実際の評価を物語っていると思う。

「やりたいことはたくさんあります」と兼子さんは言う。もう「守」から離れる時期のはずだ。決めるのは自分自身だ。

他人がやりたくてできないでいることを行動に移そうとすると、逆風にさらされてしまうのだという。
先頭を走るがゆえに、逆風にさらされてしまう人。私が何かできるわけではないけれど、せめて、そのような人の側(がわ)に立ちたいと思う。
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兼子さんがワインをサーブするレアな図。

RED U-35のドキュメントあるそうです。
BSフジ「RED U-35 2014」詳しくは→こちら
放送日時:2014年11月23日(日)13:00~13:55


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