インド人シェフによる、日本でもちょっとお目にかかれないかもしれない、洗練された南インド料理。
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場所は裁判所の近く。最寄り駅はSt.James's park。高級レジデンスの路面に店はある。
お昼3皿24£コースは、前菜、メイン、付け合わせ、デザート、飲み物をメニューからそれぞれ自由に選んで組み合わせる方式。

今回ここは赤本を見て、年始に営業している中から前情報無し、全くの勘で選んだ。

ただ、映画「マダム・マロリーと魔法のスパイス」を直前に見ていたことはこの店を選んだ理由の一つだ(単純だ)。どちらもインド人が異国でレストランのシェフをやって認められるという設定が共通している。
いま話題の、インド人シェフが作るバンコクのレストランGagganの評価の高さの秘密も、これでちょっとのぞければなどという思いもあった(安直だ)。

この映画、原題は「The Hundred-Foot Journey」といい、フランス人マダム・マロリーが守る南仏の小さな町の30年ミシュラン1つ星のレストランと、その真向かいに新しく出来たインド人一家経営のインド料理店との距離という意味なのだが、邦題がいろいろ誤解を生んでいる。

まず、主人公はマダム・マロリーではなく、移民として家族で家庭的なインド料理店を出しながら、天才的な味覚でハイパーモダンなインド料理を作るようになるインド人青年ハッサンだ。
才能あるインド人が異国を故郷として、どうやって根を下ろしていくかという問題がこの映画の隠れた主題であり、ディズニー映画としてはけっこう考えさせる要素の多い映画ではある(これ以上ネタバレはしません)。フランス料理の古典・基本である5つのソースを作るシーンなど、料理映画?としての側面も。

出てくるフランス料理はといえば、いつの時代設定だというくらい古典的で、逆に分子料理を作るシーンは、ことさらに未来的だ(レビューしている人の中にも、例の「シェフ!」に出て来た奇妙な分子料理の店を思い出した人が多かったみたい)。
そもそも、主人公がインド人男性でその恋人がフランス人女性という組み合わせは、フランス映画であればちょっとあり得なかったんじゃないだろうか?(「マダム・マロリーと魔法のスパイス」2014年、インド/UAE/米、監督ラッセ・ハルストレム)

閑話休題。

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アミューズ代わりの小さなパパド(せんべい状のスナック)についてきたディップがどれも初めて食べる味だった。しかもどれもエッジがきいている。

辛さが強烈なもの、辛さの奥のレモン味が主体のもの、レッドカレーに似たもの、色に似ずまろやかなもの…その中に一つだけ、マレーシアあたりでいつも食べているカレーに入っている味があった(手前右の薄緑のディップ)。でも、それをどんな味だったと表現出来ない。

そもそも、味覚の表現は難しいもので、他人に味を伝えるときも、○○に似ているとか、甘い、酸っぱい、辛いなどの味の四元素に基づく表現は出来ても、そうでないものの説明は難しいことはこのような本(『美味しさの脳科学』)で指摘されていた。そして今回まさに、私自身が、数種類のディップの味の違いを表現する言葉を持ち合わせていないことに気づく。

このように多種のスパイスを使い分ける料理を作る人々に、私は尊敬の念を抱かずにいられない。インド人は、見た目が同じカレーでも、同じか違うか、具体的にどんなスパイスが入っているかがみんなわかるのだ、という記事を読んだことがある。彼らには、それを表現する語彙がどのように備わっていて、他者にそれをどのように伝えているのだろう?

人間は言葉にして初めて物事を認識できる。それが出来ないからこそ、スパイスに馴染みがない私たちには、スパイスが一振りで味を作る「魔法」のように映ってしまうのだろう。
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前菜のmasala dosa。マサラドーサはジャガイモなどを香辛料で炒めたものをドーサでくるんだ料理。添えられたスープ「サンバル」も控えめ。

このパンケーキ部分の薄さ!これだけ香りが複雑なのに、食べながらよく味わってみると味はほとんどなく、中身も含めてあるのは香りだけ。控えめだけど、印象に残った。
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メイン付け合わせのほうれん草も香りは豊かで味はものすごく控えめ。その香りと味の対比、メリハリも楽しかった。
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ラッサムは全員出るようだ。
トマトの旨み多めのリッチ系。洗練された味。もう少しリーンでもいいような気もする…けど、他の料理とのバランスでこれがベストなんだろう。

インド人シェフSriram Aylur氏は弁護士志望から転身、イギリスで店を開き08年にミシュランの星を取るまで、順風でここまで来たようにサイトからは読めるが、異国で店を出しこのレベルまで持ってくるのは苦労なしでは出来ないだろう。

エスニックという下駄を履かせるまでもなく、この店はどの都市にあっても堂々1つ星にふさわしいと思う。

ロンドンにお越しの際はぜひ!
ここの唯一の欠点は、つい食べ過ぎてあとで胃が重くなること。

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Quilon Restaurant
41 Buckingham Gate London,SW1E 6AF
+44(0)20 7821 1899
予約は上記公式サイトから可能。