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田中淳(たなか・あつし)さんの料理を私が初めて頂いたのは2013年。当時、田中さんは現在の店の開店準備中で、ときどき都内で食事会や出張料理会が行われていた。

それを遡ること2年前、2011年にスペイン・デニアの3つ星「Quique Dacosta(キケ・ダコスタ)」(当時は2つ星)を訪れた際、そこで修業経験のある日本人の料理人さんがいることを知った。それが田中さんだった。
どんな料理か興味があった。ミニマリズムを体得している日本人の修業先として、ミニマリズムをさらに過激に進化させたようなキケの料理を吸収したら、どんな感じになるんだろうか?

田中さんは1980年生まれ、東京の「ピエール・ガニエール」、スペインの「キケ・ダコスタ」、ベルギーの「パストラル」を経て14年に現在の「Restaurant A.T」をオープン。

ガニエール、キケ、パストラルで修業経験と来れば、相当にモダンな料理が来ることは想像できるが、果たして、田中さんの料理は、そのスピリッツを均等に受け継いだようなたたずまいだ。

本日のメニュー(95ユーロ、フォアグラ追加の場合+20ユーロ)
(2015年9月)

Chips de Charbon
Poireau / Beurre Noisette
Aubergine
Daurade / Oseille / Groseille
Moules / Céleri-Rave
Camouflage:Omble Chevalier / Genievre / Persil
Gambas / Romanesco / Citron
Courge Musquee / Bulot / Poivre Timut
Cabillaud / Cebette / Huître
Boeuf / Carotte / Mirabelle
Myrtille / Hinoki / Piment de Jamaïque
Pomme / Sauge
Supplement Foie Gras / Poivre Long / Meringue


すでに多く指摘されているように、田中さんの料理の特徴は色合いだ。
色合いが鮮やかな料理と、逆に黒やグレーという無彩色の料理を、コースに自在に入れてくる。
食器の色も料理と慎重に色合わせをした感じで、皿ごと一つの美しい色のかたまりだ。

①料理と皿の関係、②料理と料理の色味のコントラスト、③ひと皿のなかでも、隠し、あとで見せる色の時間差など、色で楽しませるためのいろいろな位相がある。

色彩と食べ物の一般的な関係として、黒は、食器などに使うと、料理を引き立てておいしく見せる効果がある。
例えば黒いお皿とか、漆器などを思い出してもそうだ。
白の皿は言うまでもなく、何にでも合う美しいキャンバス。
じゃあ、グレーは? というと、どうしてもぼやけた印象になってしまう。メリットはあまり思いつかないという意味で、特徴的な色だ。
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よく写真であがる最初のひと品、竹炭のチップス。濃いグレーだ。
グレーの食材って、天然にほとんどないのではないだろうか? 
よく見れば料理だけでなく、店内もそうで、壁、テーブル、椅子まで薄いグレーでまとめられている。
グレーを料理のみならず店のテーマカラーにしているのは、レストランとしては相当に挑戦的なメッセージに映る。
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Foie Gras / Poivre Long / Meringue
フォアグラのテリーヌ。
グレーのメレンゲで覆ってあり、中は見えない。
お皿も同じ色。
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中を開けると、フォアグラ。
周囲は黒(くだいたメレンゲのようなもの)で覆われていて、余計にフォアグラの淡いベージュが引き立つ。
白黒映画のなかに一つだけ、色鮮やかなものが置かれているような印象だ。
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Gambas / Romanesco / Citron
これはキケ・ダコスタのスペシャリテを思い出させ、思わずにやりとするひと品。
ロマネスコと緑のシトロンクリーム(色をロマネスコの緑にきちっと合わせてある!)をどけると、写真には写っていないが、半生のわずかに赤いエビ。
緑と細い赤の、繊細なコントラストだ。
ガンバは現地でエビの意味。キケ・ダコスタのコースには、必ずキレッキレのエビの料理が入っている。
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(Quique Dacosta、2011年)これは味噌だけ食べてくださいという料理。

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Courge Musquee / Bulot / Poivre Timut
ポワヴル・ティミュット(ティムール産黒コショウ)と、ツブ貝と、かぼちゃ。食感のアクセントにかぼちゃの種のロースト。添えられた黒いオイルにコショウが入っているのかもしれない。黄色に黒の料理。
黄色に黒の料理と聞くと、相当にはじけた色味を想像するが、実際には全くそうならないのが不思議。かぼちゃのピュレはもったり感を増幅するので、もっと少なくてよかったかも。色味のバランスを優先したのかもしれない。
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皿の色が青・白・黒の入る複雑な模様で、料理とほれぼれするほどぴったりの色味だ(どこの皿か聞き忘れてしまった)。
皿は食えないだろ!といわれそうだが、このような美しい色味は、見ているだけでもごちそうだ。
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先ほどのフォアグラのように、無彩色の食材の下に色鮮やかな…というと、あちこちの雑誌や記事でとりあげられて、有名になったデセール「HINOKI」。

ヒノキの香りがするデセールというのも意表を突かれるが、このクリームをどけると、ブルーベリーの鮮やかな青紫が表れる。
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Rojiura_Atsushi_Tanaka_Agneau

Rojiura_Atsushi_Tanaka_Chinchard


2013年に都内で頂いた料理をここに並べてみると、羊の付け合せのサルサヴェルデ的ソースや、鰤の赤にセロリの白にナスタチウムの緑のような、"色合いが美しければ味も決まる"をこのときも体現していることがわかる。

料理に色が重要なのは論を俟たないが、それでも、これほどに色味を重要視し、色から料理を考えるという田中さんの姿勢は特徴的だ。
これはフランス料理なのか?と言われるとどうだろう。スペイン料理的であり、北欧料理的でもある。
はっきりしているのは、田中さんの料理がフランス料理の範疇に入っているかどうかは、目の前の料理のおいしさとは関係がないということだ。
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Moules / Céleri-Rave
色味ばかり気にしながら食べていたところへ投入された、クラシックなひと品。ニンニクとムールのだしで、脊髄反射でうまいと思える。
なぜここにこんな超定番料理を入れたんだろう?と思いながら頂いたが、このような重しのひと皿があることで、他の料理がどれだけ思い切りモダンに振れても、食べ手は安心してモダンへ行けるいう効用はあるのだ。



Restaurant A.T
4 Rue du Cardinal Lemoine, 75005 Paris
+33 1 56 81 94 08

予約はサイト上で。
Lunch: 12:15-14:00
Dinner: 20:00-21:30
日月休