あけましておめでとうございます。
2018年に出かけたレストランの料理のなかから、今でも鮮明に思い出せるものの備忘録を。

2018年に訪れた主な都市(1食以上食べた都市)は、
ジャカルタ、ウラジオストク、マドリード、パリ、コペンハーゲン、フェロー諸島、ゲント、サンチアゴ、プンタ・アレーナス、プエルトナタレス、香港、台北(2回)、台南など。
パリやマドリードなど、乗り継ぎのみの滞在で半日程度しかいられなかった都市には未練が残る。

国内では函館、札幌、洞爺、直江津、和歌山、大阪、京都、富山、福井、神戸、静岡、小松、金沢など。2018年は国内の移動が多く、特に北陸には秋と冬に訪れることができ、両方の季節の味覚を味わえたのは収穫だった。

海外4皿、国内11皿。
掲載は順不同で。

noma2.0

noma(デンマーク)野菜のセビーチェ
nomaがクリスチャニアの現在の地に移転して初めての訪問。2016年以来、通算4回目。今回も19名の同行者が日本や欧州から集結した。
nomaが季節ごとに出す食材を限定するようになった今回は、夏のベジタブルシーズン。野菜のセビーチェは、イチゴの甘みとラディッシュの苦味の合わさったその「合い方」にひかれた。魚介類を入れずにセビーチェにするために、小さな食材の酸味のさまざまなありかたというアプローチで来るというのが新鮮だった。セビーチェって魚料理ではなくてもよかったんじゃないかという驚き。

Koks

koks(デンマーク)ホタテ
2018年の夏は、念願のフェロー諸島に飛んだ。KOKSを訪れるためだ。
店名はフェロー語で「素晴らしいものを加える」という意味らしい。海産物に恵まれ得られた飛び切りの鮮度の自然の恵みに、発酵、燻製、熟成という伝統的製法を掛け合わせる。フェロー諸島は木がない特徴的な丘陵地で、羊を人よりも多く見かける。その羊の肉を、(木がないので風で干して保存するのだという。コースの中で出されたのは2歳になるという大きなホタテ。1本1本の繊維が太く、それで大味にならずに日本で食べる繊細なホタテとはまた別のうまさが出るのは驚きだった。味そのもの以上に、店までのアプローチも心に残る店。

HAJIME_planet_earth

Hajime(大阪)地球(planet earth)
言わずと知れた名物「地球」(planet earth)。直径60cmの大皿に盛り込まれた100種類以上の野菜が並ぶさまには圧倒される。シェフ・米田肇さんが幼年期に「うつくしい」と感嘆した、自然をかたちづくるさまざまなパーツの美しいバランスが、そのまま料理に「複雑さ」として盛り込まれていると感じた。米田さんにしか作れない料理。(訪問記 http://mdspplus.ldblog.jp/archives/hajime_osaka_2018.html )

YArn_dessert

SHÓKUDŌ YArn(石川)みりんご
1月と11月に訪問。何が出てくるのだろう?という謎のメニュー、目の前に出てきてなお味の想像がつかなくて、口に入れると「なるほど!」と謎が解ける、その楽しさが米田裕二さん・亜佐美さんの料理の真骨頂だ。スペイン料理と見せかけて、その実は、日本の家庭料理をベースにしたイノベーティブ料理なのだ。家庭料理を食べれば、だれもが思い出す自分だけの記憶や思い出を、YArnを訪れたゲストは料理の思い出と一緒に持ち帰る。
この日のデザート「みりんご」は、私自身の5年前の思い出を再確認させる料理だった。(1月訪問記 http://mdspplus.ldblog.jp/archives/SHOKUDO_YArn.html )

txoko

txoko(東京)セップのパイ添え焼き
リストランテヒロ青山本店で長くシェフをつとめた関口晴朗さんが、ついに独立! 店名は、仲間が集い食材を調理し楽しむ場という意味のバスク語。ヒロ時代にもいただいた、セップのパイ添え焼き。今回はブルガリア産。関口さんはあえてパイ包みにはせず、セップの焼いた香りを出す。その香りはパイにちゃんと付く。トスカーナの赤と合わせると泣くほどうまい。

sazenka

茶禅華(東京)2種の調理法で仕上げられた鳩
麻布長江と龍吟出身の川田智也さんの繰り出す、中国各地の料理に範を取った料理は繊細で、味の着地点の精度が驚異的に高い。2017年に開店していきなりミシュランの2つ星となったのはだれもが納得するところ。この日はメインの鳩が良かった。  
「日本の食材が(中国より)良すぎる」という川田さんの言葉が印象深かった。(「シェフのヨコガオ」)現地の料理を日本で再現するときに、日本の食材の良さが逆にマイナスになる。そこで川田さんが和食に範を求めたというのはすごい。 日本で外国料理を作る意味については、突き詰めるほど悩むものなのだなと思う。

inua_08

inua(東京)湯葉に包まれた野菜の花
nomaが日本にやってきた! 場所はnomaの書籍に関わった角川書店の本社ビル。オフィスビルの最上階に突然表れた北欧料理店と、確かに日本の食材を使っているのに誰も食べたことのない味に、ゲストは驚き、面食らった。
これまでの日本の食文化から全く切れたところに咲いた花に、良い評価をしない人が少なくないのは知っている。しかしこれも日本の食文化のひとつの解釈であることと、いまの時期にこのようなレストランがやってきたことは書き留めておくべきことかなと思う。
訪問はオープンして間もない7月。まだ湯気を立てている湯葉に、きゅうり、柚子の皮、ホースラディッシュ、仕上げにローズオイル。いくらでも食べていられる、やさしい味だった。(訪問記 http://mdspplus.ldblog.jp/archives/inua_2018.html )

Mingles

mingles(韓国)アワビと白菜
韓国料理の視野を広げる、衝撃的な料理だった。
韓国料理をパーツに分解・再構築した印象。シグネチャーディッシュのズッキーニにかけるカボチャとハーブのソース、ノドグロに敷いた醤油ベースのフェンネルを合わせた醬、どれもぴったりで、その独自性に言葉を失う。 この日のアワビと白菜の料理は、発酵させた白菜と薄切りのアワビにかけられた山椒のソースが良かった。何かを漬けこんだあとに染み出したジャンをソースにすることもあるそうだ。

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Aida(和歌山)ベルベーヌと豆
5月初旬訪問。Aidaファンがこぞって訪れている、豆の出始めの時期に間に合った。野菜の旬は短い。豆そのもののみずみずしさを味わう豆料理は、このときはいつものうすいえんどうが終わってしまっていて、スナップエンドウの若豆だった。スペインで珍重される涙豆を思い起こさせる。甘み、塩味、ミルク分のコクがそれぞれ同量のバランスで、舌に載せられる感覚、その何も足さない、何も引かない味の決まり具合は、小林さん独自のものだと毎度思う。(訪問記 http://mdspplus.ldblog.jp/archives/villa_aida_2018.html )

clairirere2018

La clairirere(白金高輪)コルベールをソースサルミで
1月と10月訪問。この日は1月。燕三条で仕留められたコルベールを鏡のようなソースサルミで。見た目より軽やかな、熟成少なめの繊細なコルベールに、根セロリのピューレのわずかな甘さ。ご相伴させて頂いたボーペイサージュとのバランスもぴったりで、シェフ柴田秀之さんの、一人ひとりの客を見る目の確かさが伺えた。古典料理のはずなのに、口に運ぶと初めて体験する食材の組み合わせの新しさに毎回驚かされる。今年新たにミシュラン1つ星。

Ajidokoro

味道広路(北海道)聖護院大根とアナゴとゴボウの炊き合わせ
札幌から車で90分、夕張地方栗山の日本料理店。店主の酒井弘志さんは地元栗山出身で、招福楼東京店の料理長を務めた。
酒井さんの料理が凄いのは、地元栗山の食材を使って招福楼的な洗練された料理にするのではなく、野菜の良さを生かすベクトルのまま洗練させたところ。「招福楼の手法を忘れるのに苦労した」とWEB記事にありさもありなん。こんな洗練の方法があるのかと目から鱗だった。
この日の聖護院大根とアナゴとゴボウの炊き合わせは、大根を炊いた汁に昆布を合わせ、唐辛子を強めに当てる。主役は大根とゴボウで、ゴボウはあえて太い輪切りのままで供される。北海道でしか食べられない、北海道和食と呼びたい料理。

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営致会館(香港)卵白のフランと上湯とガルーパの蒸し物
シェフは唐閣出身、Duddell's経由、この店は2017年8月オープン。食べてて思わずすげえ!と笑いが出た。コースのなかのひと品、卵白のフランと上湯とガルーパの蒸し物。上湯がなんと上品でうまいこと! そして対照的に、アラカルトで頼んだ鰻もちょい脂濃く下品でこれまた◎。香港にはまだまだ知らないすごい店がどれだけあるのかと思わせる。
開業後3か月で1つ星になり、今年2つ星に。順当だ。

Maruta

Maruta(東京)鴨のロースト
三鷹駅からバス20分の公園そばの薪焼きレストラン。客席とキッチンが一体となった店内の薪釜がライブ感を伝える。大木が生える裏庭のハーブ、魚は伊豆産を調布飛行場から、野菜は近隣農場から。ローカルな場所と食材が洗練と親しみやすさに。カジュアルではあり、スタイルはカジュアルで料理はガストロノミー。これまでにあまりなかった形態かなと思う。目の前で薪焼きで仕上げられる鴨をみんなで切り分ける。そのシェアする楽しさと、なんといっても目の前でパチパチとはぜる焚火がすべてのゲストに幸福感をもたらす。

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太平寿し(石川)しめ鯖
1月と11月に訪問。「金沢の至宝」前店主・髙谷進二郎氏が急逝されたのは2018年3月のことだった。心配しながら向かった1月にはもう髙谷さんにはお会いできず、現店主・向野公士さんが握っておられた。「味は引き継いでいますので」と、1月に出されたしめ鯖は、脂の載り具合、しめ具合ともに素晴らしく、髙谷さんの面影とともに長く記憶に残るものだった。氷見の寒ブリ、定番になったノドグロの蒸し寿し、メジマグロ、冬の味覚はどれも忘れがたい。
次の太平寿しは、向野さんがご自身の世界を展開する舞台となる。

kabi_Ojiya

Kabi(東京)Ojiya
10月訪問。Kabiの由来は「黴」。北欧修業で発酵にはまった”発酵Boys”安田翔平さん。日本料理とも親和性が高そうなイメージを持っていたが、実際に料理を頂いてみて、それが思った以上に突き詰められていると感じた。この日の「Ojiya」は、滋賀の鮒ずしを細かく刻んで、富士酢と合わせたもの。鮒ずしの独特の風味と酢の酸味が、チーズのリゾットのような、乳酸菌の風味をもたらしている。


(番外編)
料理そのものというより、料理も含めたいろいろな意味で忘れがたい店を。

Igarashi

東京和食 五十嵐
4月と10月に訪問。住所電話非公開、食べログ不可、貸切不可と禁忌が多い代わり、ゲストが料理店で感じがちな「ちょっとした希望」がことごとく叶えられる店でもある。それは店主「クロダンボネ(小河原修)」さんの、徹底的な食べ手視点の柔軟な店作りに拠るのだろう。料理人は小十出身の五十嵐大輔さん。一番だし椀のあとに松茸とフカヒレの薄葛仕立て、鰻を3種の焼き方で食べ比べ等々、「どこにもない日本料理」は日本料理の創造的破壊を目指す。ここは来店数がRでカウントされる。まだオープンして1年にならないのに、すでにR26の人がいるそうだ(!)

すきやばし次郎
伝手を得て初訪問。目の前で淡々と鮨を握る次郎さん、かなりのハイペースで出される20貫、酢飯は相当な量があるはずなのにさらさらと胃に入る不思議。この日はシマアジとイワシが殊に心に残った。口に入れる瞬間にシマアジの香りが立って、脂と酢飯が絡まったときのうまみは忘れがたい。
おん歳93歳。ありがたい体験でした。
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2018年は個人的に、初めて踏み出したことがいろいろあった。

web用のレストラン紹介記事のライターを請け負った。
今さら?と笑われるかもしれないが、ブログを見てくださっていくつかお声がかかった。本業では編集として原稿料を出す側の業務に携わっているが、さて自分が原稿料をいただく側になると、主観を排して相手のオーダーに沿った原稿を書く難しさを思い知った。

カメラ沼に落ちた。
最初は、このブログのブラッシュアップを思い立ち、文章はともかく料理写真だけでも少しでも良いものに…という程度の動機だったのが、富士フィルムの一眼レフxt2とレンズに出会ったことにより、思わぬ方向へ転換してしまった。料理は変わらず撮っているが、そこに、人を撮ることが加わったのだ。

沼にはまったきっかけであるxf56mmF1.2というレンズは、富士フィルムのレンズのラインナップの中でも、ポートレート向きといわれているレンズだ。これで人を撮る面白さにはまった。今は昔と違い、テクニックがそれほどなくても、機械のおかげである程度の写真が撮れるようになったのも大きい。

20年くらい前、本業の方(文芸雑誌の編集部)で座談会の出演者の顔写真を撮る担当だった。
現像に出してあがってきた写真で、出演者の生き生きと話す瞬間の表情を確認するのは楽しかった。そのときの経験が、趣味として目の前に出てきたときに思い出されたもののような気がする。
今は主に、レストランで帰りがけにシェフにお願いして被写体になってもらっている。お疲れのところ、拙い写真の被写体になってくださる皆さん、いつもありがとうございます。(Instagramflickrのアカウントを立ち上げました。)

2019年も新たなことに挑戦していきたいと思っています。
今年もよろしくお願いいたします。