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不思議な感覚だった。

私はいま、どこで食べているんだろう?
卓上で交わされる会話は、英語、フランス語、台湾語、日本語。
そして厨房は日本、台湾、フランス。
食材は台湾。
そして、目の前にあるのは…
フランス料理だ。

ta vie(香港)の佐藤秀明さんのコラボディナーがあると聞いて、台北へ飛んだのは11月初旬。
場所は、台北にあるレストランTaïrroir(態芮 タイルイ。Taiwanとテロワールの造語)。
シェフのKai Ho(何順凱)さんと、Kaiさんのシンガポールでの修業時代の師匠である、現Odette(シンガポール)のJulien Royerさんと佐藤さん、3人が1つのコースを作るディナーだ。

佐藤さんは日本人、Kaiさんは台湾人、Julienさんはフランス人。
共通するのは、フランス料理を作る、ということ。

台湾にはまだ、世界中から注目されるようなフランス料理店は少ない。Tairroirは2016年のオープンだが、私はまだ訪れたことがなかった。

つまり、台湾の食材で作るフランス料理を食べるのは、初めての体験だ。

馨肝寶貝(Kai)
Royale of pork liver"a la Taiwanaise"Homemade Bakkwa,Pumpkin,squid
金木水火土(Julien)
"Textures"of Taiwanese Sunchoke
抖鮑袱(佐藤)
"Civet"Braised Abaline Covered with "Abalone Shell"
絶蛋雙嬌(Julien)
Confit Egg Yolk "Paysanne",Yilan Caviar
酒酔的探戈(佐藤)
Charcoal Grilled Yulin Chicken "Vin Jaune Puli"Taiwanese Rice,White Truffe&White Aspragus
台南人的早餐(Kai)
Tainan Milkfish,Fig,Fermented Tohu,Longan Reduction
鴨鴨柿稲(Julien)
Soy Glazed Pingtung Duck in 3 ways,Persimmon,Princess Matsutake
調啤搗旦
Fromage Blanc,Pomelo Sorbet,Mayer Lemon Cream,Taiwan 18days draft Beer Jelly,Aloe Vera
栗秋(佐藤)
"Les Feuilles Mortes"Fresh Chestnuts Mont-Blanc with Pu'er Tea Ice Cream
2017-12-31-20-44-20

金木水火土
"Textures"of Taiwanese Sunchoke
Julien作。台湾産の菊芋。
菊芋の炭スモークとアイスとソース。
材料はすべて菊芋で、テクスチャと風味と温度を少しずつずらして構成されている。
スモークの加減と菊芋の土臭さと繊細な冷たさで、目が覚めるようだ。
菊芋はどの国のものでも、味の違いはあまり感じられない。
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抖鮑袱
"Civet"Braised Abaline Covered with "Abalone Shell"

佐藤さん作。鮑の殻は、実はイカスミでできたメレンゲ状の薄い板、という遊び心。
tairroir_Abalone

中は鮑と椎茸とベビーオニオン。濃い鮑の肝のソース。
上から下までうまみと甘みが詰まっている。
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酒酔的探戈
Charcoal Grilled Yulin Chicken "Vin Jaune Puli"Taiwanese Rice,White Truffe&White Aspragus
こちらも佐藤さん作。コック・オー・ヴァンジョーヌ的な。
鶏をイエローワインならぬ、紹興酒のソースで。クラシックな印象だ。
よく知っている料理を、現地の食材で作る。
味は明らかにフランス料理なのだが、そのずらされた部分が新鮮に感じる。
代用食材、というような感じにならないのはなぜだろう?
食材が代用とは呼べないような、飛び切りの質だからだろうか。
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台南人的早餐
Tainan Milifish,Fig,Fermented Tohu,Longan Reduction

最も「台湾らしさ」を感じたひと品。
ミルクフィッシュ(サバヒー)は、台中~台南ではポピュラーな大衆魚で、種としてはニシンに近いらしいが、食べた感じはスズキに近い。
台南では、サバヒー粥としてよく食べられている。
サバヒーは、日本ではなぜかほとんど流通していない魚で、台南に行ったことのない私はこれが初めてだ。
台中の出身であるKaiさんが、その台南の朝ごはんをイメージしたものという。
ゼラチン質でむっちりした白身魚と腐乳の取り合わせは、台湾の食事のようであり、ブールブランを添えたスズキのポワレを頂いているようでもある。
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鴨鴨柿稲
Soy Glazed Pingtung Duck in 3 ways,Persimmon,Princess Matsutake

Julien作のメインの鴨。2種類の部位のローストと、鴨からだしをとったスープ。
同じ食材を3つの調理法でひとつの皿にするのは、菊芋の前菜も同じ手法だったし、Odetteでのメニューにもあって、彼の好きな手法なのかなと思う。
どれも、食感や風味を少しずつずらすことで、食材の新たな面や動きを出している。
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栗秋
"Les Feuilles Mortes"Fresh Chestnuts Mont-Blanc with Pu'er Tea Ice Cream
デセールは、佐藤さんが自身のお店でも出しているというモンブラン。
プーアール茶の、熟成というより香ばしい軽い香りは、乳製品に風味とコクを与える。
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最後はメニューになかったエクストラ。
「お祭りですから」と、厨房から出て切ってくださったメロンのショートケーキ。

コースは、なめらかに進んだ。
厨房が見えなければ、ひとりのシェフから生み出された料理だといわれても、全く違和感がない。
3人それぞれの違った「とんがり」も不思議と感じられない。
厨房は真剣な表情は見えるものの、雰囲気は明るく、なごやかだ。
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この「なめらかさ」の正体は、何なのだろう?

その答えはたぶん、フランス料理の強固な、とても強固な「型」ではないかと思い至った。
フランス料理の、どんな食材でもフランス料理になってしまう強固な「型」と、汎用性の高さと、包容力だ。

あるいは、こうも考えた。
たとえば、懐石料理をフランスで、フランスの食材にこだわって作ったら?
あるいは、広東料理をスペインで、スペインの食材にこだわって作ったら?
日本の食材で作るものを超えた懐石料理が、中国の食材で作るものを超えた広東料理が果たして生まれるだろうか。

このイベントは、3つの国の、それぞれ異なる言語と異なるバックグラウンドをもつ3人が、フランス料理という一つの「共通言語」で繋がったイベントだ。
6hands dinnerとひと口に言うが、正確に言えば、「台湾の食材でフランス料理を展開するTaïrroirで、Kaiさんの師匠であるJulienさんが"台湾の食材で作るフランス料理"に挑戦し、そこに、香港で日本含めアジアの食材をフューチャーしてフランス料理を出す佐藤さんが加わる」という形だ。

このコラボレーションを行うにあたり、3人は事前に鶏や醤油など台湾の食材の視察におもむいたのだそうで、その力の入りようがうかがえた。

ご一緒した在仏のジャーナリスト・増井千尋さんは、今回のイベントをこのように評していた。

「外交の場、フランス料理。いや、『料理』だけでいいだろう」

3人のシェフ、3つの国をつないでみせたフランス料理をたたえたことばだ。
フランス料理こそが「料理」だ、という宣言でもある。
まさにまさに。
今回のイベントはこのひと言に集約されるだろう。

フランス料理の力や可能性を、そして、その「世界をつなぐ」役割の大きさを、フランスから遠く離れた台湾で、改めて感じさせられた。

態芮 Taïrroir[タイルイ](台北)
シェフ;Kai Ho(何順凱)
http://www.tairroir.com/
10491 台湾 Taipei City, Zhongshan District, Lequn 3rd Road, 299號


ta vie(香港)
シェフ;佐藤秀明
http://tavie.com.hk/
21 Stanley St, Central, 香港


Odette(シンガポール)
シェフ;Julien Royer
http://www.odetterestaurant.com/
1 Saint Andrew's Road, #01-04, National Gallery, シンガポール 178957