最初の1皿にやられた。
薄いパンの上に盛られたパン・タパス。
温められた、板のように薄いチョリソーの輪切りの上に、繊細に削られたカカオ70%チョコレートが載っている。
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「おすすめです」ということばに従って注文したそれは、見た目は平べったいし、華やかな色もない。
しかし、少しおくうちに、チョリソーの熱と油で少しずつ溶け出したチョコレートが、目の前でみるみるうちにほどけて、香りを放ち始めた。

ひと口で食べるのがもったいなくて、ふた口、みくちと端からかじっていくと、チョリソーの塩気とチョコレートの甘味の感じがどんどん変わっていくのがわかった。
まるでチョウの羽化みたいだ、と思いながら、どんどん変わっていくタパスに見とれていると、ひとり、狂おしい気持ちになっていく。

「ティキ・プラーカ(バスク語で「小さい皿」という意味)」のシェフ八谷玲美(はちや・れみ)さんは、スペインでの修行経験はないという。都内のフレンチレストランで10年近くのキャリアののち、イタリアン、スペインバルなどで働き、今回この物件に出会ったのだそうだ。
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7坪に満たないその小さな店は、4人座れる長卓を2台入れれば残りは人が通れる隙間がぎりぎりだ。
通常はその長卓を店の両壁際にしつらえ、中央の空間を開けて、スタンディングバーのようなレイアウトにしているらしいが、この日は前日に貸し切り営業だったらしく、2卓を店の中央でくっつけて、8人が向かい合って座れるような配置になっていた。

「誤算でした。ひとりでやってるのに、この卓、重すぎてひとりでは動かせないんです」

店の場所は新橋・烏森神社のわき、路地の奥の奥。

この界隈は歴史ある飲み屋や寿司屋、クラブなどが多く、この路地は、それらの店に予約しているような人しか入ってこないのだという。
ふらふら歩いていては絶対にたどり着けない場所なのに、それなりに人が来る。
この日は4人のグループと私たち。
帰り際に男性客がひとり。
まだどのメディアも取り上げていないのに、どこからお客さんが来るんだろう。

最初のチョコレートタパスの余韻も冷めないうちに、次の皿が来た。

この日頼んだ料理は以下の通り。

チョリソーとチョコレートのパン・タパス
卵とアンチョビ・赤ピーマンのパン・タパス
アジと焼き茄子・カリフラワーのパン・タパス
牛肉と深谷ねぎ・マッシュルームのピンチョ・ロメスコソース
キノコのプランチャ
白イカのソテー マロンソース
自家製チョリソーのプランチャ
ブラックチーズケーキ


サンセバスチャンで見てきたものの再現もあり、オリジナルで考えたものもあるというが、タパスも、カリエンテ(熱い料理)も大きなぶれがない。
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卵とアンチョビ・赤ピーマンのパン・タパス
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アジと焼き茄子とカリフラワーのタパス
マリネされたアジ、焼き茄子の香ばしい香り、生のカリフラワーの食感と野菜独特のわずかなえぐみ。
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白イカのソテーは、冷凍して繊維を壊してあるので柔らかい食感だ。
栗のペーストなのか、ねっとりした甘さとイカのうまみが合う。
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チーズケーキはサン・セバスチャンのバル「La Viña(ラ・ヴィーニャ)」の名物、チーズクリームケーキに近づけようと試行錯誤されたものらしい。
表面を強めに焼いて焦げ目をつけているのがラ・ヴィーニャのチーズケーキの特徴で、この焦げた香りとチーズがコーヒーに合う。

食べながら外の様子を見ていると、隣のクラブから帰るらしいコートを着込んだ男性客と、ノースリーブのワンピースの女性が店内をのぞいてきた。
結局、男性は入らないで帰ってしまった。ちょっと飲みたかったのに、なんとなく入りづらかったという風情だ。
女性だけが笑顔で扉を開けて、声をかけた。奥にいた八谷さんも笑顔で応じる。
今日はいつもとテーブルの配置が違うので、気になったらしい。

「いいよいいよ、テーブル動かすのこんど手伝ってあげる」

「ティキ・プラーカ」は開店してまだ1ヶ月。
軒を並べる飲食店どうしの、濃密なつきあいとあたたかな空気は、すでに何年も営業している店のそれだった。
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Txiki Plaka(ティキプラカ)
https://www.facebook.com/pg/txikiplaka/
東京都港区新橋2-15-13
03-6206-1125
17:00-23:00LO(close24:00)
土日休